改正特許法等の解説・2011

〜特許制度をめぐる審議状況、「新規事項追加」の
    補正に関する改訂審査基準、商標保護の動向〜(5)

  目次
 

  • 付録 産業財産権関係料金表(特許庁への手続に必要な料金)概略表


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  3.最近の商標を巡る動向
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(1)商標権の更新登録申請について
 平成10年4月1日の書換登録申請の受付開始から既に10年以上経過しており、今後更新登録申請を行う際には、以下の事項に注意して下さい。

 A.既に書換登録された商標権の更新登録申請について 
 書換登録された商標権は、書換登録申請時の商品及び役務の区分に従って書き換えられているため、複数の区分で登録されている場合が多いと考えられる。
 そのため、書換登録後の更新登録申請に際しては、区分の数により登録料が変わるので注意が必要になる。
 また、更新登録申請と同時であれば、商標権に係る商品又は役務の区分の数を減縮することもできるので、更新登録申請に際しては、真に必要とされる指定商品を検討の上申請に係る商品又は役務の区分を決定する必要がある。
 但し、指定商品又は指定役務単位での減縮は認められないので注意が必要である。

 B.直近の更新申請時に書換登録申請を行わなかった商標権について 
 更新登録された商標権が、所定の期間に「書換登録申請を行わなかった場合等附則(昭和34年法律第127号)第11条(商標権の消滅)」に該当する場合には、その商標権は、上記更新登録に基づく存続期間の満了日に消滅する。
 したがって、上記条件に該当する商標権は、次の更新登録申請はできないので、くれぐれも注意して下さい。
 尚、この場合の対処としては再出願等があるが、更新登録申請に際しては、原簿等を確認の上対処を検討することが普段にもまして重要になっているので、念の為、注意を喚起した次第である。

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(2)「商標」の定義規定の見直し
 平成22年3月24日の産業構造審議会商標制度小委員会で、商標出願件数の減少を含む最近の出願近況報告が行われ、次いで、「商標」の定義についての論議、次いで商標法第4条第1項第13号の見直し、改正後の「類似商品・役務審査基準」の導入方法についてについて話し合われた。
 以下では紙面の関係もあり、「商標」の定義の見直しについてのなかで思向される4つの方向性について簡単に述べる。
 尚、仮に「商標」の定義に識別性を追加した場合には、TRIPS協定第16条第1項との整合性の観点から、商標権の禁止権を規定する商標法第37条等の「商標」を「標章」に改めることとなると考えられる。

 A.「商標」の定義に主観的識別性を追加 
 「商標」の定義に、自他の商品等を識別するために用いるという使用者の意思があること(主観的識別性)を追加する。また、商品等との関係で客観的に自他商品等の識別性があるかどうかについては、現行と同様に登録要件において判断することとする。これにより、使用者が自他商品等を識別するために用いるものではない場合は、「商標」概念に含まれないこととなる。

 B.「商標」の定義に客観的識別性を追加 
 「商標」の定義に、商品等との関係で客観的に自他商品等の識別性があること(客観的識別性)を追加する。具体的には、第3条第1項第6号の内容(例えば「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる標章(使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものを含む。)」)を「商標」の定義に追加する。この場合、客観的識別性の有無については、「商標」の定義において判断することになり、登録要件で重ねて判断する必要がないため、現行第3条の客観的識別性に関する登録要件は削除されることになる。これにより、商品等との関係において客観的に見て自他商品等識別機能を発揮し得ない場合は、「商標」概念に含まれないこととなる。

 C.「商標」の定義に抽象的な客観的識別性を追加 
 「商標」の定義に、特定の商品又は役務に関わらない何らかの商品等との関係で客観的識別性を有し得ること(抽象的な客観的識別性)を追加する。この場合、「商標」の定義と登録要件における客観的識別性の関係が問題となるが、この点、ドイツでは、商標の定義(ドイツ商標法第3条)における自他商品等識別可能性を「抽象的識別性」、登録要件(ドイツ商標法第8条)における識別性を「具体的識別性」と解釈している。「抽象的識別性」は、特定の商品又は役務に関わらない抽象的な識別能力を判断するものであり、「具体的識別性」は、ある事業に係る指定商品若しくは指定役務を他の事業に係る商品若しくは役務から識別する能力を判断するものであるとしている。そこで、「商標]の定義に追加する客観的識別性は、特定の商品又は役務に関わらない何らかの商品等との関係で客観的識別性を有し得るもの(抽象的な客観的識別性)とする一方、登録要件の客観的識別性は、出願に係る具体的な商品等(指定商品等)との関係で客観的識別性の有無を判断する必要があることから、現行第3条の登録要件を維持することとする。これにより、いかなる商品等との関係でも客観的識別性を有し得ないものは、「商標」概念に含まれないこととなる。

 D.現行通り 
 検討した結果現行通りという選択肢もあるとして一項目が設けられている。

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(3)新しいタイプの商標の保護
 A.新しいタイプの商標の保護について 
 平成20年6月10日に開催された第19回の産業構造審議会商標制度小委員会で、「新しい商標に開する検討ワーキンググループ」の立ち上げが了承された。その後5回にわたって検討を積み重ね報告書が作成され、本年10月5日に再開された第20回産業構造審議会商標制度小委員会に報告された。その後、平成22年3月24日に開催された第21回の産業構造審議会商標制度小委員会では上記のように「商標」の定義の見直し等について論議が行われた。次いで、同年7月2日に開催された第22回の産業構造審議会商標制度小委員会では、新しいタイプの商標について、導入された場合に予想される、一商標一出願、商標の識別性、商標の類似、その他の拒絶理由についての報告がなされたが、時間の関係で、十分な論議を行うことは出来なかった。特に新しいタイプの商標が単独で識別力を発揮している例は極めて希であること等から説明がわかりにくい等の意見が多数寄せられ、次回に論議が持ち越されて以降、同年11月末までに産業構造審議会商標制度小委員会は開催されていない。
 以下、新しいタイプ商標の登録要件等について論点を簡単に述べる。尚、詳細の資料等は特許庁のホームページ中の産業構造審議会の資料をご覧頂きたい。

 B.一商標一出願についての検討課題 
 社会通念において取引上一つの商標として使用・認識される新しいタイプの商標やそれらの組合せは一商標一出願の原則を満たすものと考えられるが、複数の商標を特定したものと認識される商標や権利範囲を漠然と特定することからその範囲が不明確な商標は、一商標一出願の原則に基づき拒絶されるべきと考えられる。なお、本要件は商標の特定方法と密接に関連するものであり、特定方法を検討する際にも改めて検討することになる。

 C.商標の識別性についての検討課題 
 現行では、出願された商標のうち識別力を有するものに限って商標登録が認められている。新しいタイプの商標についても、識別力を有するものに限って登録を認めることが適切と考えられる。また、使用により識別力を獲得したものについても登録を認めることが適切と考えられる。なお、新しいタイプの商標については、全体として第3条第2項(使用による識別力の獲得)に該当しない限り識別力が認められないものが多くなると予想される。そこで、新しいタイプの商標についても、識別力がないものや、公益上の理由等から独占が適当でないものは登録を認めないようにする必要がある。また、識別力のないものであっても、使用された結果、識別力が認められるに至ったものについては、その登録が認められるようにする必要がある。

 D.商標の類似についての検討課題 
 新しいタイプの商標における類似については、従来の類否の考え方を踏まえ、さらに、タイプごとの特性を考慮しつつ判断することが適切であり、また、離隔的観察、全体観察と要部観察等の手法も、タイプ毎の特性を考慮しつつ用いることが適切と考えられる。また、現行制度の下でもタイプが異なる商標同士の類否判断も行っていることから、新しいタイプの商標を追加する場合においても、あえて法律上新しいタイプの商標に特有の事情を定めることはせず、これまでと同様に、新しいタイプの商標も含めタイプ横断的に商標の類否を判断することが適切と考えられる。

 E.その他の拒絶理由についての検討課題 
 @ 公益的な音
 緊急用のサイレンや国歌(他国のものを合む。)等の公益的な音の商標は、一私人に独占を許すことは妥当ではないことから、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。

 A 特許権、実用新案権、意匠権、著作権との調整
 新しいタイプの商標について、現行法における調整と異なる取扱いをする特段の事情がないため、商標権等による登録商標の使用がその使用態様により他人の著作権、意匠権等と抵触するときは、これまでと同様に、その抵触する部分について当該登録商標の使用を制限することが適切と考えられる。

 B 機能性等
 新しいタイプの商標のうち、商品等の機能を確保するために不可欠なもののみからなる商標は、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。

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(4)歴史上の人物からなる商標登録出願の取扱
 周知・著名な歴史上の人物名についての商標登録出願の審査において、一昨年の10月に審査便覧が改訂され、その運用がなされてから約1年が過ぎ、この審査便覧に基づく審査がなされた結果と推定される拒絶理由を見受けるようになってきた。本年の特集に際し昨年に引き続き、「歴史上の人物名からなる商標の商標登録出願」に際して審査便覧を再確認することで、無用な争いを事前に回避する等の注意喚起を行うことを目的として、改訂審査便覧を再掲するものである。

<審査便覧の抜粋>
 歴史上の人物名からなる商標の商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、@ 当該歴史上の人物の周知・著名性、A 当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、B 当該歴史上の人物名の利用状況、C 当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係、D 出願の経緯・目的・理由、E 当該歴史上の人物と出願人との関係等を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断することとする。
 又、上記に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。

(5)商標法改正の動向
 昨年来検討されている新しい商標の導入についての改正は再来年になる可能性がある。一方、商標法第4条第1項第13号については早期に廃止することを要望する意見があることを踏まえて、特許法の改正が予定される来年に同時に商標法の改正が行われ、そこで商標法第4条第1項第13号が廃止される可能性がある。引き続き対応をチェックする必要があると思われる。

(6)先行商標の調査について
 A.調査目的等 
 商標調査についてはその目的により調査の行い方、使用データベース、調査の終了の仕方等が異なる為、当該調査の目的はしっかりと確認しておく必要がある。
 主な目的としては、@ 新規出願の為の先行商標調査、A 新規商標使用のための調査、B 意見書・審判請求書等に添付する証拠を見つける調査、C 他社の出願・登録動向を調べる調査などが考えられる。
 商標調査で使用する主なデータベース(以下「DB」と言う。)として、無料DBとして、特許電子図書館(IPDL)があり、有料のDBとしては、ブランデー、インターマーク、インフォソナー等があるので、一般には、調査で使用する頻度等に合わせて利用しやすいDBを選択して使用する事になる。

 B.調査対象の特定 
 調査対象としては、@ 文字の場合、A 図形のみの場合、B 文字と図形の場合が考えられる。@ の調査場合には調査対象商品・役務の特定、称呼の特定、観念の有無を検討し称呼類似の調査はIPDL等のDBを使用して先行商標を検索し、識別力については過去の審査例の調査の他、インターネット等の情報、辞書等の情報を検索する。A の場合には主にウイーン図形分類で分類された図形商標DBの検索が必要になる。B の場合には@ の検索にA の検索を合わせて行い図形との結合具合を最後に判断することになる。
 商品については、対象が有体物であり比較的把握し易く更に実務も歴史があるため、新しい商品であっても比較的容易に検索分類を特定することが出来る。しかし、役務については、平成4年から導入され常に新しい役務が生まれている実情等から、検索対象を特定する際には細心の注意が必要である。例えば、インターネットによる商品の販売を行っている場合、商品の取引を全て自分で行っているのであれば、製造小売という商品又は、いわゆる商品の小売と言う役務でとらえる二通りが考えられる。他にも、実際の取り引きは個々の業者単位で行っている場合には、「商品情報の提供」等と「商品購入者の紹介」と言う役務を行っていると考えられ、その商標がどの役務(又は商品)を識別するための目印かによって検索区分が変わってしまうので細心の注意が必要になる。

 C.調査可能範囲のチェック 
 調査に取りかかる前に、使用するデータベースの蓄積期間を確認することは重要である。データベース毎に蓄積期間が異なるため、当然検出するはずのものが、検出したりしなかったりする事があるからである。ある程度検索になれてくると当然すぎて意外と見落としがちな盲点であり、いつもチェックするように心がけることが大切である。

 D.調査の心構え 
 まず、調査というものは、本来ミスを起こしやすいものなので、そのミスを最小限に止めるよう心がけることが重要である。
 例えば、ある文字商標を調査する場合、TPDLの検索で10件ヒット(検出)し、他のDBで検索すると約50件ヒットした場合を想定する。一般に、10件に目を通す方が、50件に目を通すより検索結果を調べるときに生じるミスの余地は少なくなる。従って、正しい検索であるならば検索結果は少ない程ミスの余地は少なくなる。
 しかし、一方で、10件ヒットした検索結果が本来類似している商標を漏らしてしまっている可能性を検討する必要があり、検索結果を見ただけであれば、検索自体のミス、データベースの特性からもたらされるミスは十分に回避できない。したがって、調査に際しては、使用するDBの特性を知った上で調査に望むことが好ましい。

 E.調査の終了 
 一般に先行商標を捜す調査は、その対象物が発見された時点で終了するが、商標の場合権利が切れている又は切れそうな場合には、同一商標であっても後願の登録が可能であるため、ヒットした先行商標のステータスを確認することは必須である。但し、検索自体は一応目的物を発見したため、一応は正しいと考えられるが、重複登録の場合もあり、この場合には結果として同じものを見逃していることになるため、同一対象がヒットした場合でも一定の注意が必要となる。
 また、全くヒットしない場合には、本当に先行商標が全くない場合と、実際には存在していても種々の事情でヒットしない場合の二通りが考えられる。従って、全くヒットしない場合には、データベースの調査可能範囲の再チェック等の再検討が必要になる。
以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/5/18