改正特許法等の解説・2011

〜特許制度をめぐる審議状況、「新規事項追加」の
    補正に関する改訂審査基準、商標保護の動向〜(1)

  目次
 
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  1.産業構造審議会知的財産政策部会特許制度
小委員会などにおける審議状況の紹介(1/3)
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(1)はじめに
 平成22年1月の本「解説・2010」で、特許制度研究会における議論について報告した。その後、特許制度研究会では、「特許制度に関する論点整理について(特許制度研究会報告書)」2009年12月特許制度研究会をまとめて終了した。報告書の詳細は、以下のアドレスを参照されたい。

http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/kenkyukai/tokkyoseidokenkyu.htm

 本年度は、特許制度研究会での議論を踏まえて、具体的な法改正に向けて、「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会(以下、「特許制度小委員会」)」が再開され、以下の日程で開催された。
  • 第25回 (平成22年4月9日)
  • 第26回 (平成22年4月30日)
  • 第27回 (平成22年5月24日)
  • 第28回 (平成22年6月11日)
  • 第29回 (平成22年6月25日)
  • 第30回 (平成22年7月5日)
  • 第31回 (平成22年8月10日)
  • 第32回 (平成22年11月15日)
  • 第33回 (平成22年11月30日)予定
 詳細は、特許庁HP「産業構造審議会」のサイトで「特許制度小委員会」の議事要旨、配付資料、議事録を参照されたい。

http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/shingikai/sangyou_kouzou.htm

 本稿では、紹介できる範囲内であるが議論の内容を示し、今後の法改正の方向性を見通したい。なお、議論は、執筆時点(11月8日。一部は11月25日)での内容であり、その後加えられた議論は加味されていないので了承されたい。

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(2)特許制度小委員会での議論の大枠
A.特許制度小委員会では、「オープン・イノベーションの進展等の知的財産を取り巻く環境変化に適切に対応し、イノベーションを通じた我が国の成長・競争力強化に資するため」以下の3つの視点から特許制度に関する法制的な課題について検討している。
  • @ 外部技術の活用や企業間の連携等が活発化する中、特許の適切な活用・保護を通じて、特許の円滑な利用を促進する。
  • A 中小企業・大学等の幅広いユーザーの利便性向上により、イノベーション創出の裾野を広げる。
  • B 経済のグローバル化が深化する中、特許制度についても、国際的な制度調査により、経済活動の障壁を取り除く。

B.より具体的な「特許制度に関する法制的な課題について」
 以下のように、I、II、III、IVの大枠の中で、検討事項は多岐に渡っている。

 I.活用の促進 
I-(1) 登録対抗制度の見直し
 通常実施権は「特許庁に登録しなければ、特許権の譲受人等の第三者に対抗することができない」登録対抗制度を採用している。一方、登録することが実務上困難であるとの指摘もされており、通常実施権の登録率も極めて低い状況にある。そこで、ライセンス制度の利便性向上のため、登録対抗制度の見直しについて検討している。

I-(2) 独占的ライセンス制度の在り方
 独占的ライセンスで、専用実施権は登録が必須であり「秘匿ニーズの高い実施権者の氏名等が一般に開示されてしまう」、独占的通常実施権があるが「第三者に独占性を対抗できない」等の問題がある。そこで、新たな独占的ライセンス制度のあり方について検討している。

I-(3) 特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁
 特許を受ける権利については質権の目的とすることが禁止されている。他方、中小企業や大学発ベンチャーをはじめとして、特許を受ける権利を担保とする融資のニーズがあるとの指摘がある。そこで、特許を受ける権利を目的とする質権設定について検討している。

 II.紛争の効率的・適正な解決 
II-(1) 侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い
 特許権侵害訴訟の判決が確定しても、その後、無効審判や訂正審判で侵害訴訟の判決が前提にしていた内容とは異なる内容の審決が確定すると、侵害訴訟の再審事由に該当するとされる。従って、一度確定した判決の結果が覆されるおそれがある。このような紛争の蒸し返しを防止する対応について検討する。

II-(2) 特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方
 特許の有効性について、特許庁での無効審判に加え、裁判所での特許権侵害訴訟においても争うことができる。この「ダブルトラック」について、両ルートの関係の在り方を検討する。

II-(3) 審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方
 複数の請求項からなる特許権に係る無効審判や訂正審判における、審決の確定時期及び訂正の許否判断等についての扱いが、請求項毎か、権利全体で一体不可分かの問題がある。立法的な手当をすることにより特許権全体を一体不可分に扱うこととすべきか、現行の運用と同様に請求項単位で扱うことを前提とした制度で整備を行うこととすべきかについて検討する。

II-(4) 無効審判ルートにおける訂正の在り方
 審決取消訴訟提起後の一定期間内に訂正審判が請求された場合、知財高裁は事件を特許庁へ差し戻すことができるため、知財高裁と特許庁との間で事件が繰り返し行き来する、いわゆる「キャッチボール現象」が生じ得る。そこで、無効審判制度の在り方について検討する。

II-(5) 無効審判の確定審決の第三者効の在り方
 現行制度では、無効審判の無効不成立審決の確定後は、何人も同一事実・同一証拠に基づいて無効審判を請求することはできないとされている。この場合、確定審決の効果が第三者にまで及ぶことの意義や妥当性について検討する。


 III.権利者の適切な保護 
III-(1) 差止請求権の在り方
 特許権に基づく差し止め請求は特許権侵害行為があれば原則として認められる。差し止め請求権の行使が権利の濫用に当たるような場合に、権利行使の制限に関し、民法上の権利濫用法理にゆだねるべきか、特許法に根拠規定を設けるべきかなどについて検討する。

III-(2) 冒認出願に関する救済措置の整備
 他人の発明について正当な権限がない者が出願人となっている出願(冒認出願)について、真の権利者の適切な保護を図るため、真の権判者が特許権の移転登録手続を請求できる制度の導入について検討する。

III-(3) 職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備
 職務発明訴訟における証拠収集手続の機能強化及び営業秘密の保護強化の観点から、現行制度上、適用対象が特許権侵害訴訟に限られている、「秘密保持命令」「裁判の公開停止」等の証拠収集・秘密保護の拡充規定を、職務発明訴訟においても導入することについて検討する。このテーマは特許制度研究会報告には無い。

 IV.ユーザーの利便性向上 
IV-(1) 特許法条約(PLT)との整合に向けた方式的要件の緩和
 出願人の手続負担の軽減、および国際的な制度緩和の観点から特許法条約の主要項目のうち「手続上のミスにより失効した特許権の回復」等優先度の高いものについて検討する。

IV-(2) 大学・研究者等にも容易な出願手続の在り方
 大学等における研究成果を早期に保護するため、論文をベースに最小限の労力で、早期に出願日を確保できるよう、出願手続の在り方について検討する。

IV-(3) グレースピリオドの在り方
 グレースピリオドについて、国際的制度調和や大学等における研究活動の推進の観点から、現在6ケ月とされている猶予期間の在り方や、救済の対象拡大(学術団体・博覧会の指定制度の廃止を含む)について検討する。このテーマは、特許制度研究会報告に無い。

IV-(4) 特許料金の見直し
 我が国全体のイノベーションの促進に資する料金の在り方について、受益者負担の原則を踏まえつつ、検討を行う。また、イノベーションの裾野の拡大を図る観点から、中小企業等に対する減免制度の対象拡大等について検討する。このテーマは、特許制度研究会報告に無い。

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/5/18