改正特許法等の解説・2008
〜発明の単一性の要件・知的財産裁判の動向
   意匠保護の動向・商標保護の動向の解説〜(3)

  目次
 
〔戻る〕
  3.意匠保護の動向
 改正された意匠法について、画像デサインの保護、意匠の類否、創作のバリエーションの保護という点に絞って、施行に伴い整備された『意匠審査基準』(以下、「審査基準」とする。)をベースにして解説する。また、今回の法改正のベースとなった「意匠制度の在り方について」報告書(産業構造審議会 知的財産政策部会意匠制度小委員会)(以下「審議会答申」とする。)の内容についても参照する。

[目次へ] 
(1)保護が拡大された画面デザイン
 これまで、一定の要件を具備した初期画面に限られていた画像デザインについて、「物品をベース」としつつ @初期画面に限らず、A別体の汎用の表示機器に表示される画面について拡大した。

第二条 (第1項略)
2 前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。

(1)審議会答申の考え方
@ 「審議会答申」によれば、保護の考え方は、
・・・有体物としての物品を前提として、物品と意匠との一体性という従来の考え方に沿って、機器等の物品の一部を構成する場合に、物品の用途及び 機能を実現するために必要な画面デザインを保護の対象とすることが適切であると考えられる。
 具体的には、物品の成立性に照らして不可欠な画面デザインに加え、物品の用途及び機能を実現するために表示される画面デザインを物品の部分(部分意匠)として保護することが適切であると考えられる。また、物品自体の表示部に表示される画面デザインだけでなく、物品と接続された外部の汎用途の表示機器等に表示される画面デザインも当該物品の部分意匠として保護対象とすることが適切であると考えられる。
としている。また、法的な安定性を確保するとともに、保護の対象が過度に拡大しないよう「保護対象とならない面面デザイン」として、
・・・市場で流通する有体物を基礎としつつ、物品としてのまとまりや客観的な対象範囲の特定が必要であると考えられる。こうした観点から、パソコンのような多様な用途及び機能を前提とした機器や汎用途の表示機器は、物品を把握するための基礎となる用途及び機能から物品の外延を特定できないと考えられる。
 ・・・パソコンにインストールされたアプリケーションの面面やインターネットを通じて表示された面面等を意匠権の対象とすることは適切ではないと考えられる。
としている。
A また、「審議会答申」では、諸外国の画面保護の比較について、述べられているので、概略した表のみを抜き出す。尚、表中の日本の例は、改正前の取り扱いである。保護対象である意匠の定義が異なることから、米国、欧州共同体では日本より厚い保護がなされているようである。
 詳細な主要国の画面デザインの保護については、審議会答申、特許庁HPの以下の資料を参照されたい。
 「産業構造審議会 知的財産政策部会 第7回意匠制度小委員会」 配付資料
 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/isyou_seido_menu.htm

 主要国における画面デザインの保護

米国 意匠の定義
特許法第171条
製造物品のための新規で独創的かつ装飾的な意匠
画面デザインの保護
画面上に表示するデザインでも、物品(画面)に応用又は具現化されていれば保護対象となる
(運用)
欧州共同体 EU意匠規則第1条
製品の全体又は一部の外観(製品には、グラフィック・シンボルを含む、コンピュータプログラムは除外する)
グラフィック・ユーザー・インターフェイス及びアイコンが製品として保護される
韓国> 意匠法第2条
物品(物品の部分を含む)の形状、模様、若しくは色彩又はこれらの結合
画面デザインが物品に一時的に具現される場合にも、その物品は画面デザインを表示した状態で工業上利用できる意匠と取り扱う
(運用)
日本
(改正前)
意匠法第2条
物品(物品の部分を含む)の形状、模様、若しくは色彩又はこれらの結合
物品の成立性に照らして不可欠なもの、物品自体の表示機能により表示されたもの、変化の態様が特定されているものが保護される
(運用)

産業構造審議会知的財産政策部会『意匠制度の在り方について』表10より

(2)審査基準での意匠法第2条第2項に規定する画像について(審査基準 74.1)
@ 前提として、「画像を含む意匠に係る物品が、意匠法の対象とする物品と認められるものであること」が必要である。
A また、「操作の用に供される画像であること」が必要である。
 「操作」とは、物品がその機能にしたがって働く状態にするための指示を与えることをいう。
B また、「当該物品がその機能を発揮できる状態にするための画像であること」が必要である。
 「その機能」とは、当該物品から一般的に想定できる機能を意味する。したがって、物品の本来的な機能を発揮するための操作に用いられる画像でない場合は、意匠法第2条第2項に規定する保護の対象とならない。
 (注)「発揮できる状態」とは、当該物品の機能を働かせることが可能となっている状態であり、実際に当該物品がその機能にしたがって働いている状態を保護対象に含まないことを意昧する。(当該物品がその機能にしたがって働いている状態とは、その物品の使用の目的を達成した状態であって、例えば、携帯電話機については通語中やメールの送信中、磁気ディスクレコーダーについては再生中や録画中の状態をさす。)
 ・多機能物品の取扱い 当該画像がどの機能を発揮できる状態にするために用いられるものなのか、その物品からは直接導き出すことができないような多機能物品については、その旨の説明を記載する必要がある。
 ・電子計算機の取扱い 電子計算機は、本来的な機能が情報処理であるため、電子計算機でソフトウェアを使用したり、インターネット検索を行うことは、電子計算機の情報処理機能を発揮させている状態に該当するので、電子計算機を介して表示されるこのような画像は保護対象とはならない。
C また、「当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示される画像であること」が必要である。
D 審査基準では、「当該物品と一体として用いられる物品に表示される画像」の例として、下図があがっている。



 この例では、物品は「磁気ディスクレコーダー」であり、テレビモニターに表示される。この場合、右側が【画像図】である。実際には、左の【正面図】以外に通常の1組の図面が必要である。

(3)審査基準での意匠法第2条第2項に規定する画像を含む意匠の意匠登録出願の願書・図面(審査基準 74.2)
 とりわけ、機器とは別体に画像が表示される場合について説明する。
@ 「意匠に係る物品」の欄の記載は、機器とは別体に画像が表示される場合であっても、従来通り、その機器の物品名を記載する。
 ビデオディスクプレイヤーの意匠の創作において、意匠登録を受けようとする部分である画像が当該物品と同時に使用されるテレビ受像機に表示されるものであっても、権利の客体となる意匠に係る物品が当該画像を含むビデオディスクプレイヤーであることから、願書の「意匠に係る物品」の欄には、「ビデオディスクプレイヤー」と記載されていなければならない。
A 「図面(写真など)」は、機器とは別体に画像が表示される場合であっても、従来通り、画像を含む意匠に係る物品の全体について、一組の図面が必要である。
 その物品と一体として用いられる表示機器等に表示される画像を表す図は、【画像図】として記載する。【画像図】の輪郭は、当該物品と一体として用いられる表示機器等の表示部の外周縁とする。又、【画像図】として面像を表すことができるのは、意匠に係る物品が画像を他の表示機器に表示して当該物品の操作を行うものである場合に限られる。
・・・意匠に係る物品と一体として用いられる物品(表示機器等)に表示される画像を含む意匠を部分意匠として意匠登録出願する場合であっても、一組の図面を省略することはできない。すなわち、【画像図】のみの意匠登録出願は認められない。

[目次へ] 
(2)需要者を判断主体とする意匠の類否
 この改正は、意匠の類似判断は、需要者の視覚による美感に基づいて行うことを明確化し、これにより統一性をもった類否判断を可能としたものである。
 これまで特許庁は「確認的な改正であり、実務は変わらない」「意識的な拡張・縮小はない」と説明してきたが、「審査基準」では、公知意匠を参酌する実務を踏襲したものとなっている。
 審査基準では、法第3条第1項第3号の項において記載されている。この中で、先ず判断主体について記載し(22.1.3.1.1)、意匠の類否判断の手法(22.1.3.1.2)として、旧審査基準より詳細に記載されている。以下審査基準を引用して説明する。

第二十四条 (第1項略)
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて行うものとする。

@ 判断主体
 判断主体について、審査基準では、以下のように記載されている。
 意匠の類否判断において、判断主体は、需要者(取引者を含む)(意匠法第24条第2項。同規定でいう「需要者」とは、取引者を含む概念であることから、ここでは「需要者(取引者を含む)」とする。)であり、物品の取引、流通の実態に応じた適切な者とする。
 新規性の判断時における意匠の類否の判断主体については、条文上は明確に規定されていないが、登録意匠の範囲を規定している意匠法第24条第2項において「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されていることから、新規性の判断における意匠の類否の判断主体も、同様に需要者(取引者を含む)とする。
 意匠の類否判断は、もとより人間の感覚的な部分によるところが大きいが、その判断を行う際には、意匠の創作に係る創作者の主観的な視点を排し、需要者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断する。

A 意匠の類否判断の手法
 審査基準では、「形態の共通点及び差異点の個別評価」の項において、
(i)対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及び評価
(ii)先行意匠群との対比に基づく評価
(iii)機能的意味を持つ形態及び材質に由来する形態の取扱い
として、公知意匠を参酌する旨を明示した。審査基準では、以下のように記載されている。

(ii)先行意匠群との対比に基づく評価
 出願意匠と引用意匠の各共通点及び差異点における形態が、先行意匠群と対比した場合に、注意を引きやすい形態か否かを評価する。形態が注意を引きやすいものか否かは、同じ形態を持つ公知意匠の数や、他の一般的に見られる形態とどの程度異なった形態であるか、又その形態の創作的評価の高さによって変わる。

(a)先行意匠調査を前提とする共通点の評価
 出願の意匠と引刑意匠の各共通点における形態が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた形態であった場合には、その形態は特徴的な形態とはいえない。したがって、先の先行意匠においても見られる形態ではあるが、ごく普通に見られるありふれた形態とはいえない場合と比べて、その形態が注意を引く程度は小さい。
 いずれの場合も、ありふれた形態や、公然知られた形態を単純に除外することはしない。

(b) 先行意匠調査を前提とする差異点の評価
 出願の意匠と引用意匠との対比によって認定される各差異点における形態が、他の先行意匠には見られない新規な形態であって、創作的な価値が高いと認められる場合、その形態は、過去のものとは異なっているという強い印象を与え、強く注意を引くものである。各差異点における形態が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた態様である場合は、その形態は、強く注意を引くものとはなり得ない。ただし、ありふれた形態や公知形態の組合せによっては、その組合せの形態が、注意を引く場合もある。

 更に、このように形態の共通点及び差異点を評価した後に、意匠全体について類否判断がなされるが、この判断においても、「出願に係る意匠中に用いられた公知の形態」として、審査基準では、以下のように取り扱われる旨が記載されている。
 出願意匠中に用いられた公知の形態が類否判断に与える影響の大きさは、新規な形態に比べて一般的に小さくなるが、意匠は全体が有機的な結合によって成立するものであるから、共通点又は差異点における形態が公知の形態であったとしても、その共通点又は差異点を単純除外してその他の共通点又は差異点のみについて判断することはしない。
 公知形態の組合せが新規である場合は、その組合せに係る態様を評価する。

[目次へ] 
(3)創作のバリエーションの保護 等

 意匠法改正を、創作のバリエーションの保護、創作の包括的な保護という視点からまとめる。概略は、下図に示す。



(1)関連意匠制度
 これまで、互いに類似すると判断される複数の意匠を創作した場合には、その内の1つを本意匠として、他を関連意匠として、かつ全部の意匠を同日に出願しなければなかった。今回の改正により、本意匠の出願が設定登録された後であっても公報発行日の前日までは、関連意匠の出願が可能となった。
 従って、
・本意匠についての意匠を出願した後に、類似する意匠創作した場合
・出願を絞って、出願されなかった関連意匠を本意匠出願後に権利化を希望する場合
等にも、関連意匠の出願が可能となった。
 ただし、既に本意匠に、専用実施権が設定された場合には、公報発行前であっても、関連意匠の登録を認めないので、注意を要する(10条2項)。

第十条 意匠登録出願人は、自己の意匠登録出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうちから選択した一の意匠(以下「本意匠」という。)に類似する意匠(以下「関連意匠」という。)については、当該関連意匠の意匠登録出願の日(・・・略・・・)がその本意匠の意匠登録出願の日以後であつて、第二十条第三項の規定によりその本意匠の意匠登録出願が掲載された意匠公報(同条第四項の規定により同条第三項第四号に掲げる事項が掲載されたものを除く。)の発行の日前である場合に限り、第九条第一項又は第二項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができる。
2 本意匠の意匠権について専用実施権が設定されているときは、その本意匠に係る関連意匠については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

 また、本意匠の出願後に、本意匠の意匠について実施した場合には、当然に新規性喪失の例外が適用される範囲に限られる(4条2項)。

(2)3条の2の適用
 これまで、法3条の2の規定があったので、全体意匠等の出願に対して、その全体意匠等に含まれる部分意匠の出願をする場合には、全体意匠等の出願より前又は同日に出願しなければならなかった。
 今回の改正で、以下のような場合も登録を受ける。
 「部分Aの意匠、部品Bの意匠」の出願をする場合、「部分A又は部品Bを含む全体意匠・より広い部分意匠・より広い部品意匠」(全体意匠等)が既に出願されている場合であっても、全体意匠等の出願が登録され、その後公報に掲載されるまでは、その「部品Aの意匠、部分Bの意匠」の出願が可能となった(3条の2、第1項)。
 従って、先に出願した全体意匠に対して、部分を共通する意匠を創作した場合、その共通する部分について、新たな部分意匠の意匠出願が可能である。
 ただし、その部分意匠の出願前に、全体意匠の意匠について実施した場合には、当然に新規性喪失の例外が適用される範囲に限られる(4条2項)。

第三条の二 意匠登録出願に係る意匠が、当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であって当該意匠登録出願後に第二十条第三項又は第六十六条第三項の規定により意匠公報に掲載されたもの(以下この条において「先の意匠登録出頴」という。)の願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠の一部と同一又は類似であるときは、その意匠については、前条第一項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。ただし、当該意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であつて、第二十条第三項の規定により先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(同条第四項の規定により同条第三項第四号に掲げる事項が掲載されたものを除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があつたときは、この限りでない。

(3)公報の発行日
@ 現在、設定登録から公報の発行までは約1ヶ月である。また、事案によるが、設定登録時の登録科納付から約0.5ヶ月で設定登録されている。従って、設定登録時の登録科納付日から1.5ヶ月前後で意匠公報が発行されるので、関連意匠又は部分意匠等の出願期限を予想できる。
 また、現在、意匠審査のファーストアクション期間については、次頁の表のように、2006年では7.1ヶ月であるので、目安として、ファーストアクションで登録査定となる場合、本意匠又は全体意匠等の出願から9ヶ月程度までに、関連意匠又は部分意匠の出願をすることができることになる。

    審査(ファーストアクション期間)

  2004年 2005年 2006年
特許・旧実用新案 26か月 26か月 26か月
意匠 7.5か月 7.0か月 7.1か月
商標 6.4か月 6.6か月 6.5か月

注: ファーストアクション期間は、出願・審査請求から、審査官による審査結果の最初の通知(主に特許(登録)査定又は拒絶理由通知書)が出願人等へ発送されるまでの期間である。
特許庁HP「産業財産権の現状と課題」より筆者がまとめる
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2007/toukei/02-01.pdf

A 公報の発行日については、本意匠について、秘密請求をした場合(14条1項、2項)、公報の発行日は、書誌事項が発行された1回目の公報の発行日(20条3項1号〜3号、4項)、秘密期間経過後に図面などが掲載された2回目の公報の発行日(20条3項4号、4項)を採用するのか、疑問がある。
 関連意匠については、審査基準では「本意匠が秘密にすることを請求した意匠であっても、通常の意匠と同じく1回目の意匠公報の発行日前までの関連意匠の意匠登録出願であることが要件となる」(審査基準 73.1.1.3)と明示されている。
 他方、3条の2の規定では、10条の2と同じカッコ書きで規定されているが、審査基準では「先の意匠登録出願の意匠登録に係る意匠公報(秘密にすることを請求した意匠に係る意匠公報であっても、願書の記載及び願書に添付した図面等の内容が掲載されたものを除く。)の発行日前に意匠登録出願がされていることを要する」(審査基準 24.1.6.2)と記載されているだけでである。尚、法3条の2に基づく拒絶理由の通知は、「秘密期間経過後に、意匠登録出願について掲載すべき事項のすてが掲載された意匠公報の発行日後に拒絶の理由を通知することとし、それまでは待ちの通知を発する。」(審査基準 24.2.7.3)と記載されている。

【第3章全体に参考文献】
 『意匠制度の在り方について』
 産業構造審議会 知的財産政策部会意匠制度小委員会 平成18年2月
 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/toushintou/pdf/i_p_t_arikata/ishou.pdf
 「意匠審査基準」
 http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/h18_isyou_kijun.htm

[目次へ] 
〔前へ〕 〔戻る〕 〔次へ〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/5/7