改正特許法等の解説・2012

〜イノベーションのオープン化、審判制度等の見直し、
    料金・手続の見直し、意匠法審査基準等、商標審査基準〜(3)

  目次
 
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  1.特許法などの改正(3/3)
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(3)制度の利便性向上のための料金・手続の見直し
 A.各種料金の引き下げ 
【現行制度の概要及び課題】
 昨今の経済状況の停滞に伴い、出願件数が減少傾向にあり、審査請求については料金が各国に比べ高額となっており、企業の知的財産に関する事業の障壁となっている(図表1−20)。
 また、意匠権取得費用・維持費用についても諸外国に比べ高額で、出願人・権利者の負担となっている(図表1−20)。
 国際出願については企業の事業展開のグローバル化に伴い、国際出願件数が増加傾向にあるものの、米国や欧州に比べると低い水準である(図表1−20)。
   [図表1−20]
図表1−20
(特許庁発行の説明会テキストより)
【改正の概要】
I.各種料金の引下げ(図表1−21)

 本改正で、審査請求料、意匠登録料、国際出願における国際調査手数料等が引き下げられる。改正後の料金体系は図表1−21を参照されたい。
[図表1−21]
図表1−21
(特許庁発行の説明会テキストより)
II.経過措置
@ 審査請求料
 平成23年8月1日以降の審査請求手続について新料金が適用されている。
A 意匠登録料
 改正法の施行日以降にされる登録料の納付手続に対して新料金が適用される。ただし、施行日以降の納付手続であっても、施行日前に納付すべきであった登録科を追納期間内に納付する場合には旧料金が適用される。
B 国際調査手数料等(図表1−22)
(a)調査手数料・送付手数料・追加調査手数料については、国際出願日が改正法の施行日以後の場合に適用される。
(b)予備審査手数料・追加予備審査手数料については、予備審査請求手数料等の納付日が改正法の施行日以後の場合に適用される。
   [図表1−22]
図表1−22
(特許庁発行の説明会テキストより)
 
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 B.特許料等の減免制度の拡充 
【現行制度の概要及び課題】
 現行の特許料等の減免制度は特許法、産業技術力強化法、中小ものづくり高度化法などに基づいて定められているが、減免対象者の要件が厳しいことと、減免対象となっても特許料の軽減額が平均で5,000円程度と個人・中小企業の実情に沿わない状態となっている(図表1−23)。
 そこで、特許制度としてイノベーションを強く支援するため、減免対象者の要件等を緩和する改正が行われた。
[図表1−23]
現行の減免制度の概要
対象者 減免規模 要件 法律
審査請求料 特許料
資力に乏しい
個人
免除 1〜3年免除 生活保護を受けている
または市町村民税が課されていない
特許法
半減 1〜3年猶予 所得税が課されていない
資力に乏しい
法人
資本金3億円以下
法人税又は所得税が課されていない
研究開発型
中小企業等
1〜3年半減
(一部1〜6年半減)
試験研究費比率が売上の3%超
または中小企業新事業活動促進法による認定等
産業技術力強化法、
中小ものづくり高度化法
大学・独法等 1〜3年半減 職務発明であること等 産業技術力強化法
TLO 技術移転事業の認定または承認 TLO法、産活法
(特許庁発行の説明会テキストより)
【改正の概要】
I.特許料等の減免制度の拡充

@ 特許料減免期間の延長(図表1−24)
 特許料の減免期間が3年から10年へ延長され、特許料の軽減額が5千円から11万円とされた。なお、軽減額は目安であり具体的な軽減額については政令等で定められる。
[図表1−24]
図表1−24
(特許庁発行の説明会テキストより)
A 減免対象者の拡大(図表1−25)
 現行の特許法における「資力」に関する要件が緩和されるが、こちらも具体的な減免対象者は政令で規定される。
[図表1−25]
図表1−25

(特許庁発行の説明会テキストより)
B 職務発明要件・予約承継要件の廃止
 他者から発明を承継された場合も対象となるが、減免対象となる承継方法の詳細は、各法で検討中である。特許法においては、「資力を考慮して政令で定める要件」に該当すれば、どのように承継した発明でも減免の対象となる改正がされた。
II.他法での取扱い
@ 産業技術力強化法の改正の概要
(a)職務発明要件・予約承継要件の廃止
 研究開発型中小企業において「試験研究費比率が売上の3%超」の要件を満たせば、他者から承継した発明も軽減対象となる改正がされた。
(b)軽減を受けられる発明の追加
 具体的な要件は政省令で規定されるので未定だが、大学・独立行政法人・公設試験研究機関において、軽減を受けられる発明が追加される予定である。
(c)特許料の軽減期間が特許法と同様3年から10年へ延長される。
A 中小ものづくり高度化法の改正の概要(図表1−26)
(a)職務発明要件・予約承継要件の廃止
 認定計画(中小ものづくり高度化法における認定を受けた特定研究開発等に開する計画)の実施にあたって共同研究者や第三者の発明等が活用可能となる。
(b)特定研究開発等を実施するために認定
 計画に従って承継した発明等に係る審査請求料等が軽減対象に追加される。ただし、特定研究開発等の実施と関係なく承継した発明等については軽減の対象外であるので注意が必要である。
(c)特許料の軽減期間が6年から10年へ延長される。
   [図表1−26]
図表1−26
(特許庁発行の説明会テキストより)
III.経過措置
 改正法の施行日以降にされる特許料の納付手続に対して、改正法の規定による減免措置が適用される。施行日前に既に納付した特許料及び施行日前に納付すべきであった特許料については、旧法の規定が適用される(図表1−27)。
[図表1−27]
図表1−27
(特許庁発行の説明会テキストより)
 
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 C.発明の新規性喪失の例外規定の見直 
【現行制度の概要及び課題】
 特許法では、出願前に発明が公開されてしまうと新規性を喪失し、特許を取得することが困難になる。しかし、このような場合であっても、試験の実施、刊行物への発表、電気通信回線を通じての発表、特許庁長官が指定する学会での文書発表、特許庁長官が指定する博覧会など特定の博覧会への出品等によって公開された発明については、その公開後6月以内に特許を受ける権利を有する者がした特許出願との関係では、例外的に新規性を喪失しなかったものとして扱うこととしている(特許法第30条)。
 しかし、適用の対象が上記のように限定的であるため、実際には適用の対象となり得るような公開態様(例えば、研究開発資金調達のための投資家への説明など)に十分な対応がなされていないのが現状である。
 そこで、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大する改正が行われた。
【改正の概要】
I.発明の新規性喪失の例外規定の適用対象の拡大

 現行制度の適用対象である上記の公開態様によって新規性を喪失した発明が、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して」新規性を喪失した発明にまで拡大された。これにより、例えばテレビ・ラジオでの発表によって新規性を喪失した発明であっても、新規性喪失の例外規定の適用を受けられることが可能となった(図表1−28)。
[図表1−28]
図表1−28
(特許庁発行の説明会テキストより)
 ただし、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して」とあるので、日本国又は外国特許庁への出願行為に起因して特許公報等(日本国又は外国特許庁が発行する特許公報、実用新案登録公報等)に掲載されて新規性を喪失した発明は、適用対象とならない点は注意が必要である。また、本規定はあくまで例外的な救済措置であるので、他の諸外国によってはこのような例外規定が認められず、特許取得が困難となる可能性がある点にも留意すべきである。
II.関連規定
@ 経過措置
 改正法の施行日以後の特許出願に改正後の特許法第30条の規定が適用される(附則第2条第1項)。従って、改正法の施行日から遡って6月以内にした発明公開行為は、改正法の適用対象となり得る。
 ただし、改正法の施行日以後になされた特許出願が国内優先権(特許法第41条)の主張を伴う出願(後の出願)であって、当該優先権の主張の基礎とされた出願(先の出願)が改正法の施行日前になされたものであるときは、当該後の出願に係る発明のうち、当該先の出願の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明については、改正前の特許法第30条の規定が適用される(附則第2条第2項)。
A 他法での取扱い
(a)実用新案法
 実用新案法においても特許法と同様に扱われる(実用新案法第11条第1項)。
(b)意匠法
 意匠法では、特許法と同様に日本国又は外国特許庁発行の特許公報等に掲載されて新規性を喪失した意匠は、意匠の新規性喪失の例外規定の適用対象とならないことが条文上明確にされた(意匠法第4条)。
III.その他
 改正後の特許法第30条の円滑な利用を支援するため、同条の適用を受けるために必要とされる手続等について具体的に説明した「平成23年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」が作成され、特許庁ホームページに掲載されている(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/hatumei_reigai.htm)。
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 D.出願人・特許権者の救済手続の見直し 
【現行制度の概要及び課題】
 我が国の現行制度における各種手続の中には、手続期間を徒過しても救済措置が設けられているものがあるが、極めて限定的で、またその要件が非常に厳格であって、実質的な救済が図られず、実効性が乏しいとの指摘があった(図表1−29)。
 そこで、本改正では出願人・特許権者の救済手続の見直しがなされた。
   [図表1−29]
図表1−29
(特許庁発行の説明会テキストより)
【改正の概要】
I.救済規定の見直し(図表1−30)

@ 外国語書面出願及び外国語特許出願の翻訳文の提出(特許法第36条の2、第184条の4)
 期間徒過に「正当な理由」があったときは、期間経過後1年以内であって理由がなくなってから2月以内であれば、救済手続による翻訳文の提出が認められる。
A 特許料及び割増特許料の追納(特許法第112条の2)
 従来の救済を認める要件「その責めに帰することができない理由」が厳格であったことから、この要件が「正当な理由」に緩和されるとともに、救済手続の可能な期間が「期間経過後6月以内であって理由がなくなってから14日以内」から「期間経過後1年以内であって理由がなくなってから2月以内」と拡大された。
[図表1−30]
図表1−30
(特許庁発行の説明会テキストより)
II.関連規定
@ 経過措置
(a)外国語書面出願及び外国語特許出願の翻訳文の提出
 改正法の救済規定は、施行の際に現に存する外国語書面出願及び外国語特許出願であって、本来の翻訳文提出期間が満了していないものに適用される。従って、施行日前に既に翻訳文不提出によるみなし取り下げとされた外国語書面出願及び外国語特許出願については改正法は適用されない。
(b)特許料及び割増特許料の追納
 改正法の救済規定は、施行の際に現に存するものであって、特許法第112条第1項に規定する追納期間が満了していないものに適用される。従って、施行前に既に消滅している特許権には改正法は適用されない。
A 他法での取扱い
(a)実用新案法
 実用新案法では、登録料及び割増登録料の追納(実用新案法第33条の2)、外国語実用新案登録出願の翻訳文の提出(実用新案法第48条の4)について特許法と同様の救済手続の見直しがなされた。
(b)意匠法
 意匠法においても、登録料及び割増登録料の追納(意匠法第44条の2)について特許法と同様の救済手続の見直しがなされた。
(c)商標法
 商標法においても、更新登録の申請(商標法第21条)、防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録出願(商標法第65条の3)、書換登録の申請(附則第3条)について特許法と同様の救済手続の見直しがなされた。

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 E.商標権消滅後1年間の登録排除規定の廃止 
【現行制度の概要及び課題】
 現行の商標法において、何人かが使用していた登録商標は、商標権が消滅した後であっても、商標権の消滅後1年間はその商標と同一又は類似の関係にある商標を他人が商標登録することが認められていなかった(商標法第4条第1項第13号)。これは商標に化体した信用が残存している場合もあり、その商標と同一又は類似の関係にある商標を他人が商標登録してしまうと需要者が混同するおそれがあるからである。
 しかし、近年の製品のライフサイクルは短縮化の傾向にあり、そのため早期に商標権を取得したいという出願人の要望がある。また、特許庁においては、出願から審査結果の通知がなされるまでの期間が短縮しているので、そのような状況下、この登録排除規定は早期の権利付与という出願人のニーズに応えられない制度となっていた(図表1−31)。
 そこで、本改正でこの登録排除規定の見直しが行われた。
   [図表1−31]
図表1−31
(特許庁発行の説明会テキストより)
【改正の概要】
I.商標権消滅後1年間の登録排除規定の廃止(図表1−32)

 本改正で商標法第4条第1項第13号は廃止された。これにより、無効審判や権利の放棄等によって商標権が消滅した場合に、1年間を待たずして、その商標と同一又は類似の関係にある商標について、直ちに他人が商標登録を受けることが可能となる。
 なお、商標権の消滅後に出所の混同を生ずるおそれがある場合には、混同防止に関する総括的な規定(商標法第4条第1項第15号)等を適用することが可能であるので、混同防止を図ることは制度的に担保されている。
   [図表1−32]
図表1−32
(特許庁発行の説明会テキストより)
II.経過措置
 改正法の施行の際、現に特許庁に係属している出願については商標法第4条第1項第13号の適用はなくなる。
【改正法の施行日についてのまとめ】
 改正法は公布の日(平成23年6月8日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(平成24年4月1日)から施行される。
 なお、平成23年8月1日より、出願審査請求科の引き下げが施行されている。
以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/6/14