改正特許法等の解説・2012

〜イノベーションのオープン化、審判制度等の見直し、
    料金・手続の見直し、意匠法審査基準等、商標審査基準〜(4)

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  2.意匠法審査基準等改正トピックス
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(1)意匠審査基準の改正
 改正審査基準(第2部第1章「工業上利用することができる意匠」(図面の省略のみ)、第7部第1章「部分意匠」、同第4章「画像を含む意匠」)が、平成23年7月22日に公表され、同年8月1日以降の意匠登録出願に適用される。その主な改訂点を解説する。

 A.画像意匠関連の保護要件 
A−1.意匠法2条1項の画像意匠の保護要件の緩和
 携帯電話や家電の操作パネル等の画面に表示される「画像」を、物品に付された形状・模様等として、“画像を含む意匠”を出願することができる。この場合、特許庁では、画像の“特殊性”という理由により、画像を含む意匠として法の部分意匠と認められる条件を「審査基準」で定めていた。
 改訂前の審査基準によれば、法2条1項の部分意匠と認められるためには、
 a.図形等がその物品の成立性に照らして不可欠なもの(その物品の使用目的の一部の機能を果たすために不可欠なものを含む)
 b.図形等が、その物品自体の有する(表示機能)により表示されるもの
 c.図形等が、変化する場合については、その変化の態様が特定しているものの3要件を満たす必要があるとされていた。
 今回の改訂により、a.の「不可欠な」が「必要な」と緩和され、要件全体が以下のように整理された(「審査基準」74.1 意匠法第2条第1項に規定する物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合と認められる画像について。125頁)。
@ 画像を含む意匠に係る物品が、意匠法の対象とする物品と認められるものであること
A 物品の表示部に表示される画像が、以下の条件を満たすこと
 (i)その物品の機能を果たすために必要な表示を行う画像であること
 (ii)その物品にあらかじめ記録された画像であること
 したがって、従来認められていなかった物品「携帯電話機」で付随的機能に過ぎない「方位計測機能」に関する画像意匠(図2−1)、物品「デジタルカメラ」で「カメラの傾きを感知する水準機能」に関する画像意匠(図2−2)についても、願書の記載等でその機能を説明することにより、登録可能となった(審査基準126頁)。


A−2.変化する画像の一意匠の範囲の緩和
 意匠登録出願では、原則として、1出願には1つの意匠しか記載できなかった。また、「びっくり箱」のように変化の前後の形状等に特徴がある意匠もあることから、動きのある意匠についても動きを含めた一体の意匠として、1つの出願で保護することもできていた。
 この場合、画像を含む意匠では、画像の"特殊性"により、いくつか動きのある画像で「形態的な関連性」の条件が課せられていた。とりわけ、携帯電話などの操作画像の場合、動きの変化(遷移)として創作される場合も多かった。従来の「形態的な関連性」の要件では、(概説すれば)"変化の前後で画像要素が共通している"ことが必要であったが、今回の改正で(概説すれば)"変化の態様を示す複数の画像の総体を、変化を伴う一つの意匠"と取り扱うこととなり、下記の図2−3のような例の変化も一意匠と認められることになった(審査基準164頁)。とりわけ、改訂前では「表示部拡大図5」の図面を含めることができなかった。
 しかし、今回の改訂で出願の自由度は増したが、登録意匠の範囲は全部の変化を含めた全体で判断されるので、当然ながら、より多くの変化後の画像を含める と、それだけ登録意匠の範囲は狭くなるので、注意を要する。


 
 B.部分意匠の図面提出要件の見直し(緩和) 
 部分意匠制度では、権利を求める範囲を実線、その他の部分を破線などで表現して図面等を作成して、物品の部分について保護を求めることができた。
B−1.部分意匠全般の図面
 部分意匠の意匠登録出願について、「『意匠登録を受けようとする部分』(=実線部分)以外の部分(=破線部分)のみを表す図」の一部の提出が省略可能となった。すなわち「破線しか表れない図」を、同一や対称でなくとも新たに省略できるようになった(「審査基準」71.2.2 部分意匠の意匠登録出願における図面等の記載 (2)図の省略E 82,83頁)。図2−4で、「右側面図」「左側面図」のどちらか一方、「平面図」「底面図」のどちらか一方の図を、省略できることになった。図面は、「意匠登録出願等の手続のガイドライン」125〜127頁のものを執筆者が加工した。
 しかし、日本を第1国出願として優先権を主張して他国に出願する場合、省略したために優先権が認められない場合もあり得るので、注意が必要である。


 
B−2.法2条2項「物品以外に表示される操作画像」の図面
 法2条2項の意匠の場合、物品自体の形状等を破線で表し、物品以外のモニター等に表示される形態を「画像図」として実線で表して、部分意匠の出願することができた。この場合、従来は、下記図2−5のように物品「チューナー付き磁気ディスクレコーダー」自体の形状等を破線で表した6面図が必要であった。これが、手続の簡素化により、今回の改正で、「画像図」のみの出願が可能となった。(「審査基準」71.2.2 部分意匠の意匠登録出願における図面等の記載 (2)図の省略D 82頁)。図2−5は「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手続き」119頁より執筆者が加筆修正したものである。
 このような「画像図」のみの出願では、物品「チューナー付き磁気ディスクレコーダー」自体の輪郭が示されないことになるが、"輪郭の無い物品"をどう認識するか、若干の議論があろう。

 
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(2)その他の法改正の動向
 平成25年度(予定)の意匠法改正(課題未定)の検討と平行して、ヘーグ協定(意匠の国際登録制度に関する条約)のジュネーブ・アクト(改正条約)への参加が具体的に検討されている。ヘーグ協定はこれまで欧州諸国を中心とした条約であったが、1999年のジュネーブ・アクト(2003年発効)はそれを拡大した改正条約であり、2010年5月現在40カ国・地域が加盟している。韓国は2012年1月に加盟予定で、米国、中国も加盟の準備を進めているとみられている。
 ヘーグ協定では、国際事務局へ直接出願する形式で(PCTでは、主に受理官庁である日本国特許庁へ出願)、以下のようなメリット・デメリットがあり、現行法と大きな相違があり、国内法の整備も含めて検討がなされている。
 (主なメリット)
 ・1通の願書・図面で複数国へ出願でき、また一定条件下で複数意匠も1通で行える。
 ・いかなる言語圏でも願書は英語で作成すればよい。
 ・権利者は、権利の更新・移転等は国際事務局に行えば良く、指定国毎に行う必要が無い。
 ・権利行使できるか否か、無審査国では6ケ月、実体審査国では12ケ月で判断できる。
 (主なデメリット)
 ・出願から6ヶ月で強制的に(将来拒絶になる案件も含めて)国際公開される。
 ・我が国に直接出願の場合には、平均7ヶ月で審査結果が判明するが、それより遅い。

以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/6/14